山本作兵衛氏と炭坑記録画
ヤマと動物(キツネとタヌキ)

嫌われていたキツネとタヌキ

 ヤマには特定の動物に対する俗信があります。山本作兵衛氏の炭坑記録画の中にも描かれています。もっとも嫌われていたのはキツネとタヌキでした。坑内外で人を化かしたり、いたずらをすると信じられていたからです。

 キツネに関する幾つかの話があります。毎晩、火事が起こるので原因を調べたところ、つってあるランプがひとりでに落ちて油がこぼれ、引火して燃え出しました。その火を消していると、また他方で燃え出すという不思議な火災が相次いで起こったそうです。占ってもらったところ、シバハグリ(開坑)の時に子ギツネが住んでいた穴を埋められたのを恨んだ親ギツネが復讐しているということでした。そこで稲荷(いなり)大明神としてまつったら治まったそうです。

キツネにまつわる話は恐ろしいものが多かった

▲医者や村人に化けた大勢のキツネ

 また、坑内火災で火傷を負った坑夫ところに医者や村人に化けたキツネが大勢で現れ、治療をして帰りました。その後、その人を見ると、皮をはがされ氷のように冷たくなって絶命していたなどという話もあります。(キツネは火傷のあとにできるカサブタが好物であったらしい。)

 そして、人に憑依(とりつくこと)するのもキツネで、人の口を借りてしゃべるとも言われていました。キツネは鉄砲を恐れ、人や犬に追い詰められて危機一髪というところになると、放屁(ほうひ)をして逃げようとしたそうです。そのにおいは追っていた人や犬を麻痺させるほどであったといいます。

 人に憑いたキツネを退散させるには、大日如来の化身といわれ、降魔の剣を上段に振りかざしている不動明王にお願いするのが一番とされており、祈祷師(きとうし)は不動明王にすがっていたそうです。

タヌキは坑内の支柱に化けるといわれた

▲坑内の支柱に化けたタヌキ

 タヌキに関する話としては、山間部にある小ヤマの坑内にはタヌキがいて、午前0時を過ぎたころになると、しっぽで石壁をたたいて石を掘る音を出したそうです。しかし、ツルハシと比べると金属特有の余韻がなく、遠くまでふすまを平手でたたくような音であったといいます。

 水の流れる音や人の歩く音、炭函(すみばこ)を押す音などを聞かせて、人を脅したり、だましたりしたそうです。また、追い詰められて逃げ場がなくなると、坑内の支柱に化けたともいわれています。

 タヌキは昼間には現れないで、深夜、人が少なくなったころを見計らって、いたずらをしたということです。